第63回 香月 修『スペイン風のワルツ』
今から数十年前、桐朋学園大学を目指して受験勉強に邁進していた私。あることをきっかけに、一人の作曲家の大ファンになりました。
受験科目の中の新曲視奏のため、ある楽譜を購入して訓練をしていました。その楽譜は桐朋学園の作曲科の先生方が、受験生のために書き下ろした曲を集めたものだったように記憶しています。その中で、視奏のための曲なのにとても美しく、10代の私の心をがっちりとらえた曲が2曲。その2曲とも香月修先生の作曲されたものでした。香月先生に習えるかも! と受験生の私の希望となりました。入学後、音楽理論の授業は受けられませんでしたが、先生をこっそりのぞきに行ったのは、いうまでもありません。
指導者となり、今回ご紹介したい「スペイン風のワルツ」に出会いました。この曲は、ちょっと大人っぽい、なんともほろ苦いような切ない想いが残ります。色で表現すると、私はボルドーとか深いオレンジ系かな、って思っています。和声の進行が期待を裏切らない、そして、時折入るトリルがおしゃれ度をアップしているように感じます。
そして19小節目からのフレーズ、「あれ? なんか、懐かしいような気分になるわ」と思って曲名の下にある香月先生の言葉を見て納得。
"僕の尊敬するラヴェルへのあこがれの気持ちが、少しでも伝わるとうれしいのですが。そして、そのラヴェルが好んだスペインの情緒をほんの一時でも味わっていただければ"
あー、もしかして私の大好きな、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の響きや雰囲気を彷彿とさせるのかしら?! と弾けば弾くほど「うんうん、やっぱりそう!」と勝手に決めこんでいる私。そして、大好きな2曲が結びついているような気がして、驚くとともに幸せな気分になりました。
子供達に「とっても素敵な曲があるのよ! 今度の発表会はあなたにお願いするわ!」と毎回誰かが弾く、我が教室では定番の曲。末永く愛してやまない一曲です。